小学校に上がるとすぐ、古い剣術道場に通って剣道を習いはじめた。道場からの帰りは竹刀と防具を肩にかけ、自転車を漕いで家までの夜道を走る。
その夏、道々の電信柱に怪奇映画の宣伝ビラが貼られた。「血を吸う眼」というタイトルで、怖い絵もついていた。夜ごと自転車のライトに浮かび上がる宣伝ビラの恐怖にくじけ、僕はまもなく剣道をやめた。
昼間の電信柱は白っちゃけた無愛想なコンクリートの丸太ん棒にすぎないが、夜には黒々と空に浮かび、ケーブルの触手をぴんと張り巡らせて、まるで巨大な生き物のようだ。夜の電信柱には、暗闇の神秘と怪奇映画の記憶がまとわりついている。