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潮風の届く席

 なじみの店には、たいていお気に入りの席がある。いつも座る席に誰か先客がいると、ちょっとガッカリするものだ。
 世の中にそういう人は多いようで、高名な文人や学者が通った店には「誰それ先生が愛した席」なんてものが大事そうに保存されていたりする。きっと彼らはお気に入りの席に身体を沈め、深い思索にふけっていたのだろう。

 僕のこれまでいちばんのお気に入りの席は、大学のゼミ室の自分の席だった。ただし椅子の上ではない。いつも机の下にもぐり込んでいた。もちろんそんなところで思索にふけったりはしない。完全に意識を遮断し、ヨダレを垂らしてぐうぐう眠りこけるための場所だった。

2006.11.10

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