幼い頃からろくに家事を手伝った記憶がないが、日曜にはふたつだけ決まった家事をやらされていた。ひとつは古い壁かけ時計のぜんまいを巻くこと。もうひとつはコーヒーミルで豆を挽くことだ。
どちらもアナクロっぽくてめんどうな作業だったから、大人になるとすぐにとりやめた。比類なく正確なクオーツ時計とおいしいインスタントコーヒーを導入したおかげで、簡単便利な素晴らしい生活が実現できた。
だが今でも日曜には、コーヒーミルのガリガリ鳴る音を思い出すことがある。手作業の記憶は、まるでしみつくようにいつまでも身体に残るものらしい。